転倒時の変

 織田がアクシデントに見舞われた。09年世界選手権王者ライサチェク(米)の安定感のある演技の余韻が残る会場。織田は目線を下に、氷上中央に向かっていった。

 冒頭に予定していた4回転は回避し、確実な演技構成で挑む。最初は3回転ルッツ。続く2連続3回転ジャンプも、一つ目の着氷でバランスを崩したが、持ちこたえた。一つずつ、しっかりジャンプを決めていくかに見えた。だが、悪夢はここからだった。

 終盤のジャンプで転倒し、後ろに手をつくと、いきなり動きが止まった。困惑した表情で、審判席へ。右足を見せた。靴ひもが切れていた。

 選手が過失で演技を中断すると、減点対象になる。難度を下げて、安定感のある演技をしなければならないからこそ、致命的な中断。

 心配そうに見つめるモロゾフ・コーチ、母親の憲子コーチがいるリンク脇に駆け寄り、靴ひもを直す。

 この間3分。会場は温かかった。手拍子が響き渡る。織田はその手拍子に押されるかのように、演技を再開した。

 スピンをして、喜劇王チャプリンの半生を演じ終えた織田。2人のコーチに囲まれたキスアンドクライでは、得点表示を見て、唇を真一文字に結んだ。

 遠くを見つめる両目には涙がうっすら光った。
http://www.asahi.com/olympics/news/TKY201002190263.html