言語の代わりに人間が失ったもの

瞬間的記憶力 チンパンジーの子 ヒトの大人以上…京大霊長研
0.7秒で数字9個 大学生と比較
 チンパンジーの子どもが瞬間的に記憶する能力は人間の大人を上回ることが、京都大霊長類研究所の松沢哲郎所長(比較認知科学)らの研究でわかった。大人のチンパンジーに比べても子どもが優れており、松沢所長は、人間は進化や成長の過程で、言語的機能など他の能力を得たのと引き換えに、こうした瞬間的な記憶能力を失ったとの仮説を立てている。3日付の米科学誌「カレント・バイオロジー」に掲載される。


 調査では、半年がかりで、4歳の子どもと母親のチンパンジー3組に、コンピューター画面上で1〜9の数字の大小を覚えさせた。

 5歳半の時点で、1から9までを不規則に表示した後で隠し、小さい数字の位置から順番に触れるテストを実施。最も優秀だった子どものアユム(オス)は表示時間0・7秒で数字9個の位置を正確に記憶できたが、大学生9人は全員が失敗した。

 次に、数を5個に減らし、表示時間を短縮。0・65秒では、チンパンジーの子どもと大学生の正答率はほぼ80%で並び、大人のチンパンジーは50%だった。ところが、眼球を動かして数字の位置を確認できない0・21秒では、大学生が40%を割り込み、大人のチンパンジーもわずか20%まで落ち込んだが、子どもの正答率はほぼ変わらなかった。

 進化や成長に伴って瞬間的な記憶能力が下がることについて、松沢所長は「脳の容量には限りがあるので、新しい能力を身につけるために古い能力を捨てる必要があるのではないか」と推測する。

 お茶の水女子大の内田伸子副学長(発達心理学)の話「人間の場合でも、幼児は図形を処理する能力にたけているが、言葉を覚えると時系列的に考えるように変化する。人間の知性の発達過程がうかがえ、興味深い」

 研究成果は同研究所のホームページ(http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/)で映像で公開している。

(2007年12月4日 読売新聞)
http://osaka.yomiuri.co.jp/eco_news/20071204ke01.htm

 無文字社会では人間の記憶力や記録・伝達手段が発達していたりする。結局は全体的なバランスがとれている。人とチンパンジーとか、高度情報化社会と無文字社会の間で優劣はつけられない。どこかが発達すれば、また別のどここが退化する。